ドイツへの旅 6日目① コーブルク
- tripampersand
- 2016年5月22日
- 読了時間: 4分
部屋のタバコ臭さも睡魔に囚われた後は全く気にならなかった。昨日の怒涛の一日が嘘のように穏やかに目覚めると、窓の外はまたしても深い霧。
朝食前に帰りのバス停とバスの時間を確認しておこうと外へ出てみる。肌にしっとりと空気が張り付き、吐く息は白い。
その後、食堂へ向かったが、どうやら二番乗り。男性というよりまだ男の子と呼ぶ方がしっくりくる一人が食事を終えて立ち上がるところだった。
どこからか寄せ集められてきたテーブルと椅子がぎっしり並んでいるそこは、学校の食堂のよう。それでいて、テーブルには白いテーブルクロスがかけられ、歴史ありそうな置物や飾り皿が秩序なく壁面を彩る。部屋を照らす灯りは、ランプが8つ付けられる立派なシャンデリアタイプなのに、半分は球が切れている。

なんだろう、この絶妙なチグハグ感。
元は立派なお屋敷だったはずなのに、どこで間違ってしまったのか。
縁の欠けたポットから注いだコーヒーをジーンズ姿の若者が啜るこの状況を、この屋敷はどう思っているのか気になるところ。
思いの外、ハムやチーズ、それからパンの種類が豊富で、たっぷりのコーヒーを楽しむことができたので、私達に不満は・・・・・・ない。残念感は漂ったけれど。
ところで、ドイツで食事をしていたときに度々目にしたのが、各テーブルに載せられた容器。見た目は小さいゴミ箱とかバケツといった感じ。
一体何に使うのか、結局聞きそびれてしまった。
食事を終えて席を立つと、なんとあのおじさんと出くわした。
ありがとうという言葉は本心からながら、素直に再会を喜べない私達。またしてもおじさんは強引に話を進め、必死に妹が理解した結果、昼食を一緒にどうか、と言っているらしい。
私達はおじさんに残り時間を捧げるほどの自己犠牲心を持ち合わせていなかった。
どうにか英語で捲くし立て(よく考えれば日本語でも同じようなものだったのだが)、ランチを共にするような時間はないことを納得してもらう。
おじさんは最後に、宿を出る次のバスをくどい程念押ししてくる。
どうも私達の言語レベルと知能レベルを混同されているような気がする。時刻表を見せられた上で、大きな字でバスの時刻をメモし出した。
ダンケ・・・・・・。
チェックアウトをお願いしたおばあさんは英語が丸っきりだったけど、昨夜のような、恐らくアジア人への特別な視線もなく、途中で呼ばれた若い女の子を通訳に、ちゃんと朝食を食べたのか心配してくれる。それが無性にほっとして、嬉しかった。
二人で48ユーロ!を支払い、宿を出る。
後でわかったことだが、そこはGasthofという1階はレストラン、2階以上が客室になっている小規模な庶民的な宿の一つで、図らずも、また一つドイツ文化に触れることができた。
バス停へ向かおうとすると、あのおじさんがタバコをふかしていた。
今度こそお別れしたいという思いから、大きな声でダンケシェーンと告げながら、足早に立ち去る。
しかし、バスはすぐには来なかった。
待っている間に、想像したとおりの展開になった。
笑顔でおじさんがやって来る。曖昧な笑みを交わし、ほとんど無言でバスを待つ。
もっともおじさんは何やらつぶやいていたけれど、こちらには全くわからないのだから、仕方ないと無視を決め込む。
彼が理解したのか定かでないものの、私達は午前中にバンベルクへ向かうので時間がないと説明していた。
けれど、まだ時刻は9時前で、私達はコーブルク最大の見所で、この街に来た目的でもある要塞を見ていない。
やって来たバスに乗り込んだものの、このまま乗っていればおじさんと共に駅へ向かってしまう。
そこで私達はひそひそと途中下車することに決めた。日本語を解する人が周囲にいなくて便利な点も確かにあった。少なくとも密談には。
要塞は巨大な公園の一画に建っている。
その公園前で下車する人々に続き、おじさんには短く挨拶を告げてさっさと降りる。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、おじさんもバスを降りている。
私は方角も確かめず、慌てて歩き出した。おじさんの存在に気がついていない妹は、勝手に歩き出した私に文句を垂れながら追いかけてくる。
そうして後先考えず、広大な敷地を進み出したことを後々激しく後悔するのだが、その時は強迫観念にも似た思いで、おじさんから離れることしか考えていなかった。

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